ミスには様々な原因があります。どのようにしてミスを減らしていくことが出来るのか、學至会で実践している指導の一例をご紹介いたします。原因として考えられることとして、次のような事が挙げられます(ごく一部ですが)
・字が小さい
老眼の始まった我々講師陣にはなかなか厳しいサイズの文字を書く生徒がいます(特に女子に多く見受けられます)。見間違いの温床となるばかりでなくごちゃついた印象のノートは復習意欲を削ぐ原因ともなります。
これで解決→ とにかく「字が小さい、見えない、おじいさんにも優しい文字を書いてくれ」と懇願し続けます。時間がかかる生徒も多いですが、根気強くお願いし続けるしかありません。一度大きめの文字で成功体験を味わってもらえると、以後修正されることが多くなります。
・罫線にとらわれて一行の中に無理矢理納めようとする
几帳面な生徒ほどきれいに書こうとして罫線の枠にこだわる傾向があります。特に分数計算を一行に入れ込むと、文字が小さくなり、ごちゃごちゃしてしまって見間違いや書き写しミスなどが多発するようになります。
これで解決→ 枠にとらわれない大きな人間になれ、などと諭します。罫線の入っていないノートやコピー用紙などを使って計算する習慣をつけるのも一つの方法です。これも改善に時間のかかる場合が多い事例です。
・行間/字間を空けず、びっちりと書き込む
小中学校の自習ノートの評価基準に、びっちりと書いてある・隙間が少ない方がよい、というものがあるようです。これに慣れ親しんだ生徒が多いためなのか、数式の計算などをびっちりと書いてしまっている状況によく出くわします。符号のミスはここに起因する場合が非常に多く、是非とも直さねばならない癖の一つです。
これで解決→ 多項式の場合、項と項の間や等号の前後、符号の前後に隙間を空けること、等式変型の場合は等号の位置をそろえて次行、次行へと移っていく訓練をします。同時に、教科書や参考書などを見せ、どのように書いてあるのかをしっかりと認識させ、なぜそのような書き方をしているのかを考えてもらいます。自分のノートとどちらが見やすいかを比べてもらうのもよく使う手です。
・字が汚い
基本的に勉強を面倒くさいと思っている生徒は、字を余りきれいに書かない傾向があります。自分が読み間違えるような字を書く生徒が多いのも事実。
これで解決→ 丁寧な文字を書くのは、見てもらう人(特にテストの採点者)に対する最低限のマナーであることを認識させ、徹底的に注意します。過去の例として、字をきれいに書くように気をつけるだけで、劇的に成績の上がった生徒がいることなどを伝え、丁寧に書くメリットを理解してもらいます。
字が汚いのとは少し違いますが、高校で初めて習うギリシャ文字を普通のアルファベットと混同しているのを見かけます。特にα(アルファ)とa、β(ベータ)とbなどはいつの間にかごちゃ混ぜになっていた、ということが良くあります。ω(オメガ)とwなどはよほど気をつけない限り間違える可能性大です。αやβは書き順を意識すると混同しにくくなります。αは右上から書き始め、βは左下から書き始めます。両方一筆書きで折り返したりしません。あなたの書き順、間違っていませんか?
・定規を使う
基本的にグラフを描いたり図形問題を解いたりするときに、定規を使う生徒が多くいます。中にはコンパスやテンプレート定規などを使う生徒もいます。一見きれいなノートができあがりますが。。。
これで解決→ テストでは定規コンパスは使えないことを心得よ。フリーハンドでグラフや図形を描けるようにしておかないと、テストで困ることになります。普段からフリーハンドで描く訓練をしておかないと、テストの時にだけ描くのは不可能です。
あと、最近の良く出来たノートでは、ノートに目盛りのようなものがついていて、それを使って図やグラフを描く例も多く見受けられます。完全白紙の状態からでも書けるよう、意識しておかないと一度ついた癖はなかなか直らなくなります。あなたの目的はきれいなノートを作って満足することですか? それとも、どんな状況でもきれいに図示できてテストで困らないような描画力を身につけることですか?
この話がどのようなミス防止策と絡むのか。実はきれいな図が書ければ、大体の座標や長さや面積や、そういったものの想像がつくようになるのです。
・三角形が描けない
「△ABCにおいて…」という始まりの問題を解くときに、問題文中に図形が描かれていなければ自分で描くしかありません。ところがこのとき、正三角形や二等辺三角形しか描けない生徒を非常に多く目にします。対称性があることが明示されている場合を除いて、なるべく非対称な三角形を描かないと、条件に示されていない辺の長さや角の大きさを等しいと勘違いすることがよくあります。
これで解決→ 三角形に限らず、きれいに図やグラフが描けない人の特徴として、小さく描こうとする傾向があります。小さい絵は描きにくいものです。はじめは不要なプリントの裏紙などを利用して、大きく描くようにして練習を重ねるときれいに描けるようになります。徐々に小さくするようにすれば、テストの解答用紙に収まるサイズになります。(ただし小さすぎは禁物)
また、はじめ対称な図形を描いてそこからずらしていくのも一案です。3辺の長さが与えられている場合など、小中学校流の図示の仕方が有効になる場合も多いので、復習しておくとよいでしょう。
・理解度不足
初歩的には移項、符号変換、不等号の向き、高校レベルでは指数対数・三角関数などの関数計算で、「多分こうだった/これでいいんだっけ」とウロ覚えの丸暗記自己流計算ルールで計算してしまうパターンもよく見受けられます。本人にとっては計算ミスと理解度不足の切り分けが出来ていないのかもしれません。暗記式学習法の弊害の最たるものであるといえます。
これで解決→ なぜそのようなルールに基づいて計算するのかを理解すること、その根本に戻らざるを得ません。放置すると致命的な弱点になることも多く、常になぜそのように計算するのかを考えられるようにしておくことも重要です。
また検算として、簡単な数値を代入して正しいかどうかを確かめる習慣をつけておくことも大切です。受験まで時間が無い場合は本質の理解まで到達する余裕がないことも多いものです。そんな時は数値代入による簡単な確認作業を身につけさせます。雑なやり方をしていても、反例(それが間違えであることを見抜く例)は比較的簡単に見つかります。



・検算しない
検算が嫌いだという生徒は非常に多くいます。何を隠そう筆者も大嫌いでした(面倒くさい!)。それでも小中学校(高校受験)までは乗り切れてしまうことも多いようです。算数や数学で90点以下など取ったことがない、自分は計算が得意だから大丈夫だ、と思ってしまうのも無理ないのかもしれません。ところが大学受験勉強が佳境に入り、数Ⅲの積分あたりにさしかかると、何度やっても正解にたどり着けないというようなことが良くあります。
これで解決→ こまめな検算が功を奏します。最後までやりきってから検算をやり始めて最初の方にミスが見つかると、ほぼ始めから全部やり直し、となってしまいます(この経験をしたことがある人はとても多いはず!)。こまめに検算すること(3行進む毎に検算する、といったペース)で、この不利益を回避することが出来ます。
検算は時間の無駄だと思っている人が多いようですが、実は大いなる時間の節約になるんだ、ということが認識できないと実行できないかもしれませんが。このあたりは経験なのでしょうね。
また、検算には様々なノウハウがあります。テストの時だけ検算する、というのはいかがなものかと思います。普段から検算する習慣を身につけ、自分のミスパターンや効率の良い検算法を習得しておくことも大切です。場合の数や確率・数列・整数問題ではn=1,2,3を代入してみる、余事象を加えて1になるかのチェック、積分のチェックには微分、などなど。
・感覚的に的外れな答になっていないか
後から考えると、そりゃこんな答えになるわけ無いよなぁ、と思えるような答えを平然と書き記してバッテンをもらう、というような経験は誰しもあるはずです。
これで解決→ 感覚的に、あるいは図表やグラフを利用たり数字を丸めて計算を簡略化したりして、大まかにこれくらいの答えになるんじゃないか、という当たりをつけておくと、大間違いを回避できます。たとえば(数字を丸めるというのは)。。。5.8×0.32÷2.9ならば、大雑把に言うと6×0.3÷3=0.6くらいになるはず。答えの桁が違ってしまっていたり、大幅にずれていたりしたら、間違いを疑うことができます。
図示が丁寧に出来ていれば、おおよその面積や長さの見当はつくものです。面積が思ったよりも大きすぎたり小さすぎたり、長さが長すぎたり短すぎたり負になったり、感覚と一致しない解答は疑うべきです。
このようにして疑わしい解答を見つけることが出来れば、検算リソース(時間や体力、精神力など)をそういった問題に集中できるのです。
また、あり得ない数値かどうかのチェックなども有効。例えば確率が1を越えたり負になることもないし、三角比(sinとcos)の値は-1~1の範囲に収まらなければならない。対数の底や真数は負にはならない、など。
・暗算の多用
こんな途中計算、書かなくても判るわい!と面倒な途中計算を書き込まず、半分暗算で答えを出す。終わったところで丸付けしたらあれれっ、間違いだらけだった。。。
これで解決→ 飛ばさずに途中の計算式を書きなさい。これは学校の先生を始め、多くの人が一番口酸っぱく話すミス防止法なのではないでしょうか。高校入試までは(超難関校を除き)飛ばさずにきちんと式変形していっても時間は足ります。とにかく面倒くさがりの人に多いミスです。成功体験を積んで途中計算を書き込むことが有効であると自分自身で納得すること以外に修正が難しいかもしれません。
大学入試(特に難関大)ではいちいち途中計算を書き込んでいては間に合わないこともあり、飛ばせるところは全部飛ばせ、という指導をすることもあります。この時に重要になるのが、いかに楽な計算に持ち込むかを常に考えて、そのまま面倒な計算しないこと、楽に計算できるよう工夫する努力を惜しまないことです。簡単な計算なら、ミスはしにくいのです。
有効な工夫の例としては、以下のものなどがあります
*因数分解の利用
→公式利用というよりは、共通因数をくくり出す最低限の因数分解を行うだけでも効果は絶大
*約分の活用
→約分できるところは全部約分してから計算する。分数でなくても、方程式ならば両辺に同じ係数があるときには約分!
*小数や分数の除外
→分数なら分母を払え、小数なら10倍していけばそのうち小数点が消える。とにかく整数計算に直す
*代表的な数値の暗記
→累乗、階乗、平方根の値、分母の有理化、平方根の簡単化など。
・問題を読まない、確認しない
指定されている条件の読み飛ばし、題意を把握せず、要求されている解答と違う答えを求めてしまう、など、経験ありませんか? また、問題(特に数式)の書き写しミスも多い! 問題を書き写し間違えたら、それ以降のどんな努力も時間も丸無駄になります。これも非常に多いミスの一つなのです。
これで解決→ まずは書き写した終わったら、その時点で一度確認する習慣を付けましょう。そしてとにかく問題をよく読め、何度も読め、繰り返し読め、そして最後にもう一度読め!!です。生徒の目線を追っていると、問題文を読むのは一度きりで、そのあとは解答用紙の方しか見ない、という生徒が多いように感じます。
ちょこちょこ戻って題意を確認しながら進めること。解き終わったら、それでいいんだよね、と最後にもう一度確認する習慣をつけるのが筆者流です。このような読み逃しや読み違えを入試本番でやらかしてしまっては、それまでの数年間の努力を棒に振ることになるかもしれません。その愚かさを認識するべきです。
その他似たようなミスに以下のようなものがあります。
*解答欄間違い →試験終了10分前に必ずチェック。終了間際では間に合わないことも。合わせて、氏名や受験番号、選択科目マークなどのチェックも。
*問題選択ミス →数ⅠAを解かねばならないのに、数Ⅰをやってしまった。。。というようなことのないよう。
・式の計算と方程式の区別がついていない
方程式を解け、という問題と、次の式を計算せよ、という問題の区別がつかず、ごちゃ混ぜにして計算してしまう例をよく見かけます。相違点をきちんと理解しておくことが重要です。方程式は必ず、「○○=××」という形になっています。式の計算は「○○=」という問題に形になっています。
方程式を解く際に有効なテクニックで、次のようなものがあります。
(x/3)+(3x/4)=1 を解け
という問題で、分数計算を愚直に行う必要はありません。この両辺を12倍して、
4x+9x=12
13x=12
x=12/13
0.23x-0.08x=0.75 を解け
という問題でも同じで、面倒な小数計算から逃げるためにこの両辺を100倍して、
23x-8x=75
15x=75
x=5
とすれば楽なわけです。面倒な分数/小数計算から抜け出せるのですが、これは、“両辺”を12倍する、というところがミソで、“両辺”に同じ変形を加えられない場合には使うことが出来ないテクなのです。
以下のような間違い例に陥らないよう注意してください
(x/3)+(3x/4)を計算せよ
という問題で、分数計算は面倒だから、という意図で分母を払うために12を掛けてしまって、(x/3)+(3x/4)=4x+9x=13x としてしまう、とか
0.23x-0.08xを計算せよ
という問題で、小数計算は面倒だから、という意図で100を掛けてしまって
0.23x-0.08x=23x-8x=15x としてしまうような例です。
つまり、方程式でもないのに、分母を払ってしまう、小数を払ってしまう例をよく見かけるわけです。正しくは
(x/3)+(3x/4)=(4x/12)+(9x/12)=13x/12
0.23x-0.08x=(0.23-0.08)x=0.15x
となります。
・微分と積分の混同
微分しか習っていなかった頃には起こらなかったミスが、積分を習うと頻発することがあります。例えば、の微分しか習っていない人なら、
と間違えずに答えるのですが、積分を習うと(積分定数は省略)、
これらを混同して、
などとしまう、ということが良く起こります。テレコにしてしまうんですね。
これで解決→ この辺りはある程度覚えておかないと時間が足りなくなってしまうところでもありますので、どのようなミスが起こりやすいのかを把握し、検算のチェックポイントとして意識しておくだけでも十分にミス防止の手立てになります。自分がどのようなミスをしたのかを記録しておけば、チェックポイント作りの参考になります。
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さて、このようなミスから身を守るためには、どのような装備を身につければよいのでしょうか。學至会で個別指導を受けてくれていれば、上に挙げたようなことには常に講師が注意を払っているのですが、自分でなんとかする、となるとどうなのでしょう。実際なかなか難しいのだと思います。
言い尽くされている手法ではありますが、有名な方策として「ミスノート」の作成というものがあります。自分の間違った箇所をノートにまとめる、というものです。そして時々見返す。すると、自分が何度も同じミスを犯していることに気づくことが出来るのです。人間、何度も同じミスを繰り返すと、否応なしに反省することになるのです(と期待したい!)。
また、解答の行間を埋めるトレーニングも大切です。数学の勉強をするとき、判らない問題に出くわすと模範解答を見ることがありますよね。そんな時、一行一行の変形を丁寧に追わず、なんとなく判った気になってその問題を終了してしまうことはありませんか?
わかったつもりから脱却することが、数学全体の理解度を高める何よりのコツです。何でそのようになるのか判らないところがあれば、陰湿に根に持って、解決するまで積年の恨みを溜め続けるようにしましょう。